秩父高校 特集第2弾:総合的な探究の時間
「結果より過程を学ぶ授業」──生徒が自分の興味から問いを立て、3年かけて深めていく「総合的な探究の時間」。
特集第2弾は、その3年間の学びの道筋を、「総合的な探究の時間」担当の鈴木文哉教諭と高校魅力化コーディネーターの神宮一樹さんに聞きました。

鈴木文哉 先生
(すずき・ふみや)
数学科教諭。愛知県出身。大学卒業後すぐ秩父高校に着任し、9年目。総合的な探究の時間の担当として2年目を迎え、1年生をメインに見ています。趣味はスポーツ観戦で、野球やオリンピック、世界陸上など幅広く楽しみます。なかでも野球愛・相撲愛は格別で、選手情報や番付表をチェックし、アプリで速報を追いながら自分なりの楽しみ方を深めています。
神宮一樹 さん
(じんぐう・かずき)
高校魅力化コーディネーター(元秩父市地域おこし協力隊)。深谷市出身。大学卒業後にイタリアに渡って演劇を3年間学んだ後、愛媛県の公営塾講師を経て2023年4月に秩父市に着任。秩父高校との取り組みは4年目です。現在も秩父歌舞伎や演劇の舞台に立ち続けています。

「結果より過程」を学ぶ授業
総探の正式名称は「総合的な探究の時間」。学習指導要領の改訂で2022年度から高校の必修科目になりました。秩父高校は2023年度に埼玉県教育委員会の「県立高校学際的な学び推進事業」の指定を受け、各学年の生徒に合わせた地域連携型の活動を進めています。
鈴木先生 私自身が高校生のころは「総合的な学習の時間」がありました。修学旅行の準備をしたり、行事に関することを決めたりと、ホームルームの延長のような時間だったと記憶しています。きちんと一人一人が目標を持って活動をする、という感じではなかったですね。今は「探究」と名前も変わって、内容もまったく別物になっています。
ー どんなことを学んでいくのでしょう。
神宮さん 結果より過程を学ぶ授業、と言えるかもしれません。「学び方を学ぶ」授業だと感じています。
ー ほかの教科とどう違うのでしょうか。
鈴木先生 各教科は教科書があって、学習内容が決まっています。総合的な探究の時間にはそれがありません。地域探究を本校では軸にしていますが、別に地域にこだわる必要はありません。国際系のテーマでもSDGsでも、自分の日常から課題を見つけてもいい。本当に自由に課題を設定して活動するところが、一番の違いだと思います。
神宮さん もう一つ違いを挙げるなら、「自分軸」が一つ増えるところですね。総合的な「学習」は、調べ学習で情報をまとめて発表する。「探究」は、すでにある事実に対して、自分がどう関わるかという軸が加わります。
ー 通知表など、評価軸はあるのでしょうか。
鈴木先生 評価方法も従来の教科とは異なります。5段階のような数値評価ではなく、生徒一人一人がどんな活動をして、何ができるようになったかを文章で記述する形式です。

1年生 ── 教室で型を学ぶ
中学校までに行う「総合的な学習の時間」と、高校で必修となった「総合的な探究の時間」では、生徒に求められるものが大きく変わります。秩父高校の1年生は探究を体験しながら、必要なスキルを身につけることから始めます。

ー 1年生ではどんなことを学ぶのでしょう。
鈴木先生 探究に必要なスキルを大きく三つ、ワークを通して身につけてもらいます。一つ目が「問いの立て方」。探究の出発点となる課題設定や、人にインタビューするときに質問するためのスキルです。二つ目が「情報収集と分析」。インターネット、図書館、インタビューなどで適切な情報をどう集めて使うかを学びます。三つ目が「スライド作成と発表」です。
ー 発表まで1年生で行うのですね。
鈴木先生 社会人になるとプレゼンや発表の場面が必ずあります。練習の意味も込めて、伝わるスライドの作り方や発表の仕方を学びます。3年生になって推薦入試や総合型選抜で面接を受けるとき、ここで身につけた力が生きてきます。志望理由書を書くときも、面接で自分の言葉で話すときも、すべての土台になります。
2年生 ── テーマで動き出す
1年生で身につけたスキルを使って、2年生では本格的に探究活動を始めます。
2026年度の2年生は175人が3~4人ずつ、55チームに分かれて活動しています。観光/伝統文化/食・農業/自然環境/ものづくり/まちづくり・暮らし/芸術・国際の7分野から、それぞれが興味のある分野を選びました。
ー チーム編成の方法を教えてください。
鈴木先生 生徒それぞれの興味を中心に置いた進め方を試みています。事前アンケートで興味のある分野を聞き取ったうえで体育館に集合し、それぞれが気になっているキーワードを書いた紙を胸に持って黙って歩き、近いキーワードを持つ生徒同士でまず2人、次に4人と段階的に対話を重ねてチームを組む、という流れです。

ー 新しい方式で、生徒の動きはどうでしたか。
神宮さん 私はてっきり、仲のいい生徒同士で固まると思っていたんですが、知らない生徒ともテーマを軸に真剣に話し合う場面が多くて、いい意味で意外でした。「私と一緒に〇〇をやってください」と初対面の生徒に声をかける姿もあって、とても良かったです。
活動事例
2年生の活動には、地域企業や団体との協働も多く含まれます。生徒がチームのテーマを掘り下げる中で、地域に出てフィールドワークを行ったり、地元の店と一緒に商品開発をして販売に踏み込んだりするケースもあります。
あるチームが「コミュニティーカフェをやりたい」と相談に来たときには、「なぜカフェをやりたいのか」を突き詰めました。すると「いろんな世代の人と交流したい」という思いが見えてきました。それなら、と近くの高齢者住宅を紹介し、交流イベントを企画することに。入居者には80代・90代の移住者もいて、海外で働いていた話など、普段の生活では聞けない話が飛び出しました。生徒たちにとって、大きな視野の広がりになったといいます。

秩父の菓子店と協働して「みそポテトタルト」の商品開発に取り組んだ生徒もいました。当初は大人しく、うまくやっていけるか心配だったといいます。しかし活動を通じて生徒の表情や話し方がどんどん変わっていきました。文化祭で販売した際には行列ができ、大きな自信になったようです。

観光マップとグーグルマップを連携させ、自分たちが撮った写真を見られるようにする活動に取り組んだチームもありました。この取り組みは西武鉄道とのタイアップに発展し、西武秩父駅だけでなく池袋駅にポスターが貼られたほか、地元コーヒー店で展示も行われました。卒業生や地域おこし協力隊が地域の人をつないでくれたことで、生徒だけでは届かなかった場所まで活動が広がりました。

秩父に絹文化があることから、養蚕に興味を持ったチームが「まずは子どもたちに知ってもらおう」と、子ども食堂で繭玉のキーホルダー作りを行いました。3年生まで活動を続けたメンバーは、文化祭で繭を模したお菓子と桑のお茶を販売するまでに。地域の文化は、地元に住んでいても意外と知らないもの。保護者たちにも「繭を触ったことがない」という人がいて、生徒発信で地域を伝えるきっかけにもなっています。
3年生 ── 秩高ゼミで深めて進路へ
3年生になると、2年生までのチーム活動から「秩高ゼミ」へと切り替わります。個人でテーマを深掘りする形で、約10ゼミが開講されます。生徒は志望理由書を書いて希望のゼミに配属される仕組みで、書類作成の練習も兼ねています。
ー ゼミの中身は2年生でやったテーマの延長ですか。
鈴木先生 2年生の地域探究の続きをやりたい生徒もいれば、自分の興味や進路に近いことをやりたいという生徒もいます。先生がそれぞれゼミを開講して、一人一人の生徒が自分の課題に1年間取り組んでいきます。
ー 探究の経験は、進路にも影響することがあるそうですね。
鈴木先生 近年は推薦入試や総合型選抜で、志望理由書に「探究の授業で何をしたか」を書かせる大学が増えていますし、面接でも聞かれます。地元の歌舞伎をテーマに探究を進めて、面接でその話をして合格した生徒がいました。ゼミで取り組んだ数学の課題を、出願書類として提出した生徒もいます。
探究が育むもの
ー 探究に取り組む生徒の様子はいかがですか。
鈴木先生 最初は「チームに分かれたから、とりあえず始めた」という生徒が、いろいろと知っていくうちに「これ面白い」となって、興味から行動が変わっていくんです。チームでも、活動的な生徒と任せっきりの生徒に分かれがちですが、1年通して「みんなで役割を持ってやろう」と伝え続けると、協力して何かをつくり上げる動きが生まれます。

神宮さん 学校の先生でもコーディネーターでもない「地域や地域外の大人」と出会う経験は、高校生にとって大きいのではないかと思います。学校の勉強や学校生活とは違うところで「がんばってるね」と声をかけてもらえると、それが居場所や自信につながります。
ー 「コーディネーター」として神宮さんが大事にしていることはありますか。
神宮さん 主役は生徒ですが、それを支える先生がいかに動きやすくなるかが大事だと思っています。授業づくりに不安のある先生をサポートしたり、地域からの要望と学校でできることをすり合わせたり。「いろんな立場の人の見え方を翻訳する」ことを意識しています。この感覚は、大学卒業後にイタリアで自分も「異物」として、背景の違う人たちと一つのものをつくっていた経験から来ているのかもしれません。ノリのいい生徒、おとなしい生徒、さまざまな生徒の状態に合わせて接し方を変えるように心がけています。
未来に向けて種をまく
ー 3年間の探究で身につけた力は、生徒のその先にどうつながっていくと思いますか。
鈴木先生 総合的な探究の時間で身につけた力を、入試だけでなく社会に出てからも使えるようにと考えながら指導しています。秩父高校は長く、秩父地域唯一の普通科進学校として歩んできました。2026年度から皆野高校と統合した新校としてスタートしましたが、その役割は変わりません。地域の方々にも、引き続き一緒に生徒を見守っていただけたらうれしいです。
神宮さん 総合的な探究の時間で生徒が学んでいることは、進路の先にある5年後、10年後、20年後の未来でこそ効いてくると思います。30代・40代になって、人生のターニングポイントで地元や原点を考える時期が誰しもあると思うんです。そういうときに、ここで学んだことが生きてくる。未来に向けて種をまく取り組みをしているのが秩父高校の探究だと思っています。

秩父高校
設立: 1907(明治40)年5月7日
埼玉県秩父市上町2丁目23−45
TEL:0494-22-3606
https://chichibu-h.spec.ed.jp/