
秩父の老舗旅館「旅館比与志」(秩父市野坂町)が3月4日、60周年を記念して宿の名物として提供している「ちりめん山椒(さんしょう)」の販売を、じばさん商店(宮側町)や矢尾百貨店(上町)などで始めた。
約15日ごとに変わる季節の節目に合わせ、「ちちぶの旬 二十四節気のあさごはん」として朝食の一部を入れ替えて提供している同館。2020年に母が他界し、料理経験がなかった同館の前川拓也さんはレストラン「Y'sDining寛齋」(上宮地町)の協力を得て料理の修業を重ねた。
前川さんは「当館は祖母の代に始まり、母、私まで3代にわたって続いており、昔から朝食が好評だった。中でも母が作っていた『ちりめん山椒』は今でも人気で、宿泊客からは持ち帰りたいとの声も頂く」と話す。
同館は2023年11月30日で60周年を迎えたのを機にオリジナル商品の販売を検討し、昨年9月から商品の準備を進めてきた。ちりめん山椒は、前川さんの母が作っていた味を再現し、商品として形にしたもの。前川さんは「ちりめん山椒は濃口しょうゆで作ることが多いが、薄口しょうゆを使い、ちりめん本来の味わいをより楽しめるように調整している。品質と安定供給のため、山椒は和歌山県産のぶどう山椒を使用。山椒を通常よりも多く使い、何度も改良を重ねてようやく今の形になった。ゆくゆくは秩父産の山椒を取り入れることも視野に入れている」と話す。
前川さんは宿泊業だけでなく、新たな挑戦にも取り組んできた。2022年には「Chef's Table & Cafe HIMIDORI-陽みどり-」(番場町)をオープンし、飲食業にも進出した。今回、ちりめん山椒の商品化を通じて、製造業にも挑戦することになった。前川さんは「祖母と母が残した旅館で働けることに心地よさを感じる。飲食業や製造業にも挑戦することで、旅館の魅力をより豊かにし、地元の人の雇用にもつなげていきたい」と意気込む。
商品パッケージのデザインは長瀞町の複合施設「UPDRAFT(アップドラフト)」(長瀞町長瀞)の店主でありデザイナーの柏田洋志さんが手がけた。風呂敷に包まれているようなパッケージで、柄は秩父銘仙を参考にしているという。
前川さんは「この商品は、母がいたからこそ生まれたもの。コロナ禍で家族葬しかできなかったが、母を知る人にも懐かしんで楽しんでもらえたら」と思いを込める。
ちりめん山椒は夏期(6月~9月)を除き販売を予定。価格は店により異なり、じばさん商店では930円で販売する。