
国指定重要有形文化財「内田家住宅(繭の家)」(秩父市蒔田)で10月20日、「第6回内田家秋のおいでくだ祭」が始まった。
地域の住民や芸術愛好家などが協力し、歴史ある建物を舞台に展示やパフォーマンス、地元農産物や秩父銘仙の小物販売やカフェなどさまざまな催しを行う。内田家住宅の魅力を広く紹介し、地域で活動する表現者たちの作品を通じて秩父地域の文化向上を図ることを目的に開催している。
内田家住宅は江戸時代中期の建築で、約300年前に建造された。木造の入母屋造りで、かやぶき屋根の表側を切り上げて中2階を設け、養蚕に使うための通風と採光を確保している。かつては養蚕業を営み、秩父地域における養蚕文化の歴史を伝える建物として、1971(昭和46)年に国の重要有形文化財に指定されている。
同祭が始まったのは2018(平成30)年のこと。2013(平成25)年~2016(平成28)年に内田家の保存修理事業が完了した後に当たる。きっかけは実行委員の吉田迪子さんが約20年前、改修前の内田家を題材にペン画を描いたことがきっかけだったという。作品を通じて、当主の内田和幸さんと吉田さんのつながりができ、「おいでくだ祭」が始まった。
屋外では20日、内田家住宅を背景に、村岡友憲さんと大西まさしさんによるユニット「墨鹿屋(すみろくや)」が武術や墨絵のライブペイントなどのパフォーマンスを披露。鞭杆(べんがん)や扇子を用いた演武、外郎(ういろう)売りの口上や2人のコミカルなやり取りもあり、観客から拍手が送られた。
その他、小鹿野箏曲会や高篠津軽三味線クラブ、山城英里香さん、OSAMU BAND feat.TOMOYAなどのパフォーマンス、学芸員の山本正実さんによる内田家の歴史や養蚕文化についての解説なども予定。特別企画として、現代サーカス劇「カイコ 天ノ虫」の公演を文化財の建物を舞台に行う(チケットは完売)。
屋内では吉田さんをはじめ、柳茂忠さん、OSAMUさん、松田りょうさん、村岡さんらによる作品展示を行う。吉田さんは対象を前にGペンとインクで下書きなしに描く手法を取り、スケッチブックを付け足しながら緻密な線で構成した幅2メートルに及ぶ作品なども制作。改修前に描いた内田家の作品のほか、秩父地域の寺社仏閣や学校、名家を題材にした作品も展示している。
屋外にも、内田家をぐるりと囲むように作品を展示している。OSAMUさんは、建物の構造や光の入り方を意識し、作品を家の突起や屋外の林の近くなど、場所に合わせて配置した。「内田家に連れて行ってくれと呼びかけてきた作品を連れてきた。この場所だからこそ展示したい作品がある」とOSAMUさんは話す。松田さんは秩父地域の風景を撮影した写真作品を展示し、作品と併せて2次元コードを掲示してスマートフォンで取材記事を閲覧できるようにしている。
内田さんは「この10~15年の間に、内田家を使ってくれる人たちも増えた。コロナ禍で中断した時期もあったが、取材してもらえることも多く、反響の大きさを感じている。地域の協力で少しずつ知ってもらえるようになり、ありがたく思っている」と話す。吉田さんは「気づけば多くの人がこの祭りに関わってくれるようになった。年を重ねるごとに若い人や新しい仲間も増えている。まだ知らない地元の人にも、この建物や取り組みのことなどを知ってもらえたら」と来場を呼びかける。
開催時間はおおむね10時~16時ごろ。今月26日まで。