横瀬町を拠点にする料理人「独歩ちゃん」初の書籍「足りなさを味わう: 独歩ちゃんの山ごもりレシピ日記・秋」(百万年書房)が11月7日に出版された。同書は昨年9月23日から12月31日までの日記と、その日に作った料理のレシピを収録した。
採取した秋海棠(シュウカイドウ)や沢胡桃(サワグルミ)なども使っている
独歩ちゃんは小学4年生の頃、野菜は嫌いだったが興味本位で雑草を食べていたという。さまざまな味の雑草があり、食べ始めは渋くて後から徐々に甘く、最後に紅茶の香りを感じるものを見つけて「渋柿紅茶」などと独自に命名するなどして楽しんでいた。高校には通わず、料理人の道を志した。勉強を頑張っていい成績を収めるよりも、料理を食べた人たちに喜んでもらえることにやりがいを感じたという。
東京都中野区内で営んでいたもつ焼き店「久遠の空」は2019年・2020年には「食べログアワード」を受賞。コロナ禍を機に、以前から食材調達などで訪れていた横瀬町へ2022年に移住。山梨県の「摘み草のお店 つちころび」の鶴岡舞子さんの下で野草を学び、現在はその知識を生かして野山の植物を使った料理のワークショップ「野外独歩ちゃん」を開くほか、秩父地域のイベントで野草やスパイスを使った料理を提供している。
同書誕生のきっかけは、昨年9月22日の野外独歩ちゃんに「百万年書房」社長の北尾修一さんが参加したこと。独歩ちゃんは「隣に住んでいるおじちゃんやおばちゃんのたわいのない日常にも、それぞれの物語や人生観、経験を読める本があったら面白いのではないか。いつか自分の日常も書籍にできたら」と考えていた。この思いに共感した北尾さんと書籍化の企画が盛り上がり、翌日からLINEで毎日の出来事やレシピや写真を送り始め、一日も欠かさず1年間やりとりが続いた。
独歩ちゃんは「『正解を探した人生はつまらない』などとよく口にしていたが、北尾さんに毎日メッセージを送りながら、『これで大丈夫だろうか』と戸惑う瞬間も多かった。それでも落ち込んだ日には北尾さんから励ましの言葉をもらったり、会話では伝わることも、文字にすると伝わらないことに気づいたり、1年間毎日何らかのレシピを作って送りながら暮らした」と話す。
掲載するレシピは、同町の雑草や山野草を使ったさまざまな料理。店で買える食材以外にも森に自生しているキノコや山栗、キンモクセイやススキやヒノキ、バラの実や松ぼっくりなど地元の素材を中心に使った、お茶やパスタやスパイス料理やジャムなど100以上のレシピを掲載する。
「食材は野山で採取したものが多いので、レシピを見るだけでも横瀬や秩父の季節を感じられる。とても手間のかかる料理に見えるかもしれないが、雑草や野草はその時その場で収穫できるものなので手軽。味を再現するためのレシピ本ではなく、自由な発想を楽しんでもらえたら。今回は秋編の出版なので、今後も冬・春・夏と刊行できれば」と意気込む。
仕様はA5判、360ページ。価格は2,860円。