秩父を拠点に介護タクシー事業を行う「ケアタクシークボタヤ」(秩父市日野田町)が運行を始めて、12月20日で半年がたった。医療機関に関わる移動を中心に、これまでの搬送件数は300件を超える。
生活の中での外出や観光などの付き添いにも対応し、条件に応じて他の介護タクシー事業者とも連携しながら活動している。車両はキャラバンで、最大10人まで乗車可能。リクライニング車いすやストレッチャーにも対応している。
代表の久保聡さんは、前職で秩父消防本部に33年間勤務した。防災士の資格を持ち、救急現場を含めさまざまな現場対応に携わってきた。今年で52歳となり、子どもが社会人になって落ち着いたのを節目に、早期退職を選択した。
久保さんの母は、訪問介護事業を約13年にわたり運営している。介護や福祉の現場は以前から身近な存在で、「いつか自分で事業をしてみたい」と漠然と考えていたという。車や運転が好きで、人と関わる仕事に魅力を感じていたことから、介護・福祉分野に関わる仕事として介護タクシーを選んだ。母の事業と連携しながら、秩父地域のケアマネジャーや医療機関からも依頼を受けている。
介護タクシーという仕事を具体的に意識するようになったのは、秩父市内で2012(平成24)年から事業を行う「あべケアタクシー」の存在を知ったことがきっかけ。実際に代表の阿部誠さんに連絡を取ったところ、開業準備や現場対応について相談に乗ってもらえることになった。具体的な仕事の仕方や現場での考え方まで、包み隠さず教えてもらい、大きな支えになったという。
印象に残っている利用例として、都内から観光で秩父を訪れていた80代の2人客のケースを挙げる。宿泊中に1人が体調を崩し、救急搬送後や退院時の移動を久保さんが担った。利用者の希望で日帰り温泉や土産物店などを回ってから帰宅したという。「体調を崩した直後でも、できる範囲で秩父を楽しみたいというパワフルな方々だった。利用者の方に励まされることも多いし、移動中に昔話や家族の話などいろいろと聞かせてもらい、とても勉強になる」と久保さんは話す。
車内にはAED(自動体外式除細動器)を搭載している。装備として必須ではないが、消防時代にAEDの有効性を何度も目にしてきた経験から導入を決めた。介護タクシーでは体調に不安を抱える利用者を乗せることも多く、万が一に備えるのが目的だという。
久保さんは「安心・安全・快適に利用してもらえるよう心がけている。雇用されて働いていた頃と比べ、仕事への向き合い方が変わった。仕事依頼の電話が入ると、頼ってもらえたと感じてうれしい。介護タクシーという選択肢を、もっと地元の人に知ってもらいたい。病院や介護福祉施設、同業者と連携しながら、利用者にとって無理のない形で生活を支えられる仕組みづくりを模索していきたい」と意気込みを見せる。