秩父の「つる福祉タクシー」(秩父市柳田町)が9月1日で1周年を迎えた。同社は介護や福祉の仕事に30年近く携わる介護福祉士の堀内進さんと妻の由紀さんが経営する。
進さんは山梨県出身。父が地元で福祉タクシーの事業を行っていたことから「自分だったらこんな風に事業を展開する」と、以前から思い描いていたという。2人は都内の介護系専門学校で出会い、結婚・出産を機に由紀さんの実家がある秩父市に移り住んだ。
介護福祉施設や市内の病院などで進さんは勤めてきたが、徐々に体調に異変を感じ変形性膝関節症と診断を受けた。自身の体調や将来のこと、地元への恩返しなどを考え、かねて夢だった福祉タクシーで創業することにしたという。「つる福祉タクシー」の由来は、進さんの出身地や民話の「鶴の恩返し」から。
事業は主に2つで、タクシー事業=体の状態により移動が困難な人を対象とした福祉旅客輸送と、救援事業「つるのお手伝い」=訪問による身体ケアや買い物代行などの生活支援サービス。タクシーの利用がなくても救援事業だけの依頼や、看護師の付き添いも可能。
秩父地域内の病院や買い物などへの移動をはじめ、県内からの発着で遠方への通院や転院の依頼や、旅行の手伝いなどを依頼されることもあるという。進さんは「人の手を借りるから、と心配や遠慮しすぎると行動範囲を狭めてしまう。秩父の温浴施設に車いすのお客さまと一緒に行った際、他の利用客がドアを開けてくれたり、移動の時に横で待っていてくれたりした。私自身も他の利用客に迷惑をかけないかと不安に思っていたことに気づいたが、温かい対応をしてくれる人が多くうれしかった」と話す。
由紀さんは「体調や障害を気にして出かける機会が減っている人にも、もっと気軽に外出できるように手伝えたら。特別な催しでなくても『車いすで特急列車に乗って墓参りに行きたい』など、元気な頃から日常的にやっていたことももちろんサポートする」と話す。
「お客さまの家族やケアマネや事業所など仲間の輪に混ぜてもらい、一緒にできることを模索できれば。その人の尊厳を守り、今できる範囲の中に楽しみを見いだすことで、気持ちが前向きになり、体も前向きになることもある。本人や家族が諦めていることでも、道具や時間や予算を工夫して、実現できるものもあるので相談してほしい」と進さんは話す。
利用客の中には「介護保険の申請に一緒に来てほしい」と相談をする人もいるという。要介護認定となることで受けられるサービスや、地域で連携できることが増える。「『自身が要介護認定』と本人が状況を受け入れられないケースでも、関わっていくことで気持ちが変わっていく人もいる。家族だけの関わりだと衝突することもあるが、第三者が入ることでコミュニケーションが取りやすくなることもあるので、頼ってほしい」と由紀さんは呼びかける。
進さんは「今後は、地域の人たちとより連携して、さまざまな支援が進めば。同業の人たちとも意見交換や互いに協力できる機会を持ち、地域全体で助け合えればうれしい」と話す。