秩父地域の木を使った合板で作った引き車が製作され、7月9日、中町若衆行事長の浦島章紘さんに引き渡された。引き車は7月19日・20日の「秩父川瀬祭」で中町笠鉾と一緒に移動し、主に飲料を運ぶために使われる。
秩父川瀬祭は毎年同日に開催されており、12月の「秩父夜祭」と対比となる祭りとされ、夜祭は冬の「大人の祭り」で、川瀬祭は夏の昼間の「子どもの祭り」といわれる。当日は屋台4基・笠鉾(かさぼこ)4基の引き回しを行い、2021年に「秩父川瀬祭の川瀬と屋台の行事」として埼玉県指定無形民俗文化財の指定を受けている。
浦島さんは秩父市中町出身。小学6年生の頃に川瀬祭りで梶取(かじとり)として中町笠鉾に乗り、高校生までは太鼓をたたいていた。就職のために一時は秩父を離れていたが、15年前に帰郷してからは中町若衆行事の活動に参加している。
引き車製作のきっかけは、昨年3月に浦島さんが横瀬町の「五感拡張型クリエイティブ制作室TATE Lab.(たてラボ.)」(横瀬町横瀬)のオープニングイベントに参加したこと。「木を使ってしたいこと」のアイデアを募っていたことから、浦島さんが「川瀬祭りの引き車を作りたい」と提案した。
浦島さんは「以前は笠鉾の上にクーラーボックスを載せて飲料を運んでいた。空き缶やペットボトルなどのごみも一緒に載せていたが、『そもそも神聖な笠鉾の中にごみを載せるのは良くないのでは』と6~7年前、飲料を運ぶ専用のリヤカーを購入した。その頃はリヤカーにコンクリートパネルを載せ、カッティングシートで夜祭の中町屋台のシンボルである霊亀を切り出して貼って引き車にしていた」と振り返る。
引き車を製作したのは「IT技術で森林資源の循環利用を活性化する」プロジェクト「WOOD DREAM DECK(ウッド・ドリーム・デッキ)」発起人で横瀬町在住、TIS(東京都新宿区)の伊藤淳さん。伊藤さんは「新しいテクノロジーを生かして、地域の木で地域の文化を維持する取り組みを、持続可能な社会づくりとして根付かせたい」と引き受けた。
伊藤さんが作成した設計図を元に、たてラボ.にある自動工作機械で合板を切り出して組み立てた。伊藤さんは「祭りに合うデザインの引き車を作るために、秩父夜祭の中町屋台などを参考にした。祭り以外の使わない時は分解して収納できるよう、壊さずに分解できる伝統工法の木組みをデジタルの図面にして自動工作機械で製作した」と話す。
浦島さんは「子どもの頃に中町笠鉾に梶取として乗せていただいたので、恩返しの気持ちをもって中町若衆行事長を務めている。3月には笠鉾に使う竹を取りに行き、5月ごろから定期的に集まって準備を重ねてきた。最近は40度近くまで気温が上がる日もあるので、当日は水分補給をこまめにしっかりして、安全に配慮して子どもたちにも来場者にも祭りを楽しんでもらえたら」と話す。