埼玉県きのこ振興会が12月9日、原木シイタケ生産の後継者育成を見据えた意見交換会を「秩父農林振興センター」(秩父市日野田町)で開いた。初回となる今回は、原木シイタケ栽培や林業への関心を持つ地域住民や移住者、自伐型林業の研修を受けた人、既に生産に取り組む農家など約20人が参加した。
同会の事務局は同センター林業部が務めており、生産者への原木供給や原木伐採を行う人とのマッチング、栽培に関する相談対応などを行っている。秩父市では、自分で山林を手入れしながら小規模に木を切り出す「自伐型林業」の研修も4年ほど前から始めており、受講者の中には自分の山の管理や小規模林業に取り組む人もいるという。一方、原木を切る過程をきっかけに栽培にも関心を持つ層も見られる。
生産者の高齢化や廃業で原木シイタケ栽培の担い手は減少しており、1965(昭和40)年ごろは秩父地域では1000軒以上が従事していたとされるが、現在は15軒ほどにまで減っているという。現在国内で流通する生シイタケの約95%を菌床栽培が占める一方、原木栽培は5%程度にとどまるとされる。こうした状況を踏まえ、関心を持つ人が踏み出すきっかけづくりとして今回の会を企画した。
当日は冒頭に参加者の自己紹介が行われた。家族がかつて原木シイタケを栽培していた人、移住後に山林の手入れを始めた人、定年後の取り組みとして関心を寄せる人など、さまざまな背景を持つ参加者が自身の状況や興味を話した。
原木シイタケ狩りを提供する「小松沢レジャー農園」(横瀬町)の町田恒夫社長も会に参加し、実践者の立場から「原木栽培は味や香りが全く違う。原木を切って活用することが里山の維持にもつながり、加工などによって販路の幅も広がるのでは」と期待を込める。
初回の講師は同会の山田喜久会長が務め、原木シイタケ栽培の基礎を解説した。原木は伐採後しばらく枝を付けたまま乾かし、玉切り、植菌、仮伏せ、本伏せと段階を踏んで管理する必要がある。収穫までには通常であれば1年以上を要するが、「おが菌」と呼ばれる菌を使う方法では、半年ほどで収穫できる例もあると説明した。
植菌後、シイタケ菌が原木全体に十分に回った「ほだ木」では、浸水や温度差、打撃、落雷などの刺激が発芽の引き金になることを紹介した。併せて、植菌する品種によって生育の特性が異なる点など、実践にあたって押さえるべきポイントも紹介。質疑応答では、原木の調達方法や山主との交渉の仕方、初期投資として必要な機材、病害や獣害への備えといった実務的な質問が寄せられた。
同センター林業部林業支援担当の中村雅志さんは「周知期間は短かったが予想以上の参加があり、関心の高さを感じた。高齢の生産者が廃業する例もある中で、新たに取り組む人が増えれば地域の里山の下支えにもなる。若い世代にもこうした場に足を運んでもらえるよう、今後も続けていきたい」と意気込む。